行政の法解釈でも無条件に信じてはいけないという事例
無線機器の技適と分解について
これは、事故防止のために少々極端な説明を行った人がおり、例外があるのに絶対だとの噂が広がったのではないか?という事例です。
不適切な説明
「携帯電話の分解をすると技適マークが外れ、再度電源を入れた瞬間に電波法違法になる。パソコンなども同様。」
と、行政関係の方でさえ、このような不適切なことを言う人もいるようです。
また、このようなことが起因しているのか、ネット上にも次のような誤りだったり不完全な情報が掲載されています。
分解すると端末に付与されている技適マークが無効になる
技適マークシールを剥がしたら電波法違反
修理などにより部品を交換する場合でもメーカーまたは指定業者にて行う必要がある
技適マークの無い製品を使用すると電波法違反になる
ところが、総務省の技適マークのQ&A には、これらを肯定するものはない(必ず違法とはしていない)ということを念頭に置き以下をお読みください。
携帯電話は特殊であり分解すると違法になりやすい
携帯電話は、電波法の他に電気通信事業法の制約を受けます。
また、電波法により電波の使用が認められているのは、我々ではなく電気通信事業者(以下「キャリア」。携帯電話の電波を出す操作はキャリアが遠隔操作して行うという形態)であり、 我々の使用している携帯電話は、キャリアが免許を取得しています。
よって、法的規制が強いことに加え、キャリアからも規制が入る可能性があるという点が、他の無線機器と大きく異なりますので、他の無線機では合法でも携帯電話では違法ということがあります。
某キャリアは流石です。正確に説明しています。
携帯電話の改造禁止について
改造(ソフトウェアの改造も含む)された携帯電話は絶対に使用しないでください。改造した機器を使用した場合は電波法に抵触します。
携帯電話は、電波法にもとづく特定無線設備の技術基準適合証明などを受けております。携帯電話のネジを外して内部の改造を行った場合、技術基準適合証明などが無効となります。
技術基準適合証明などが無効となった状態で使用すると、電波法に抵触しますので、絶対に使用されないようにお願いいたします。
携帯電話を含み、どのような無線機器についても、修理や改造することそのものの制限は、電波法にありません。(電気通信事業法の方には規制がありそうです)
ところが、改造については手続きが必要で、これを行わないことが電波法に抵触するのですが、携帯電話の場合は特殊であり、この手続きが個人では出来ないため、個人が改造した場合に限り確実に電波法違反となります。
厳密には、使用せずにも、すぐに電波の出せる状態で所持しているだけで、原則として違法となりますから注意してください。
某キャリアは「改造」に限った違法性の説明に留め、曖昧な「修理」に触れていないことに好感が持てます。
修理においては通常は自由なのですが、携帯電話の場合は、電波法的に携帯電話の管理者(免許人)がキャリアであるため、キャリアが「修理のためでも分解したら責任を持たない」とすれば、分解した場合は新たな無線局としての登録等(責任者を立てる)が必要になるのですが、改造同様に手続きが個人では出来ないため電波法違反となります。
携帯電話の場合は、キャリアが「修理も認めない」ということも比較的言いやすいのですが、改造禁止に留めています。
ただし、これは携帯電話に限りませんが、修理と改造の境界に曖昧な部分があるため、修理のつもりで改造してしまったというケースがあり得るため注意が必要です。
このため、機器メーカー,キャリア,行政関係者等は事故防止のため、「分解すると違法」といった極端(正確性に欠く)な説明になることが多いのだと思いますが、「分解すると必ず違法」というのは誤りです。
また、登録修理業者の制度が更に混乱を与えています。
修理にも特別な資格が必要という誤解を与えているかもしれませんが、前述した通り、修理と改造の境界に曖昧な部分があるため、この事業者なら、確実に修理の範囲を超えないことが保証される、修理のために改造してしまっても合法性を保てるというという意味の制度でしょう。(実際は修理でも改造扱いし厳しい条件をクリアしている)
ですから、携帯電話の場合は、国が認めた登録修理業者の修理なら、キャリアが管理責任を放棄することはないので、今までの免許で確実に使用できるということになります。
その他の無線機に分解の制限はない
まずは、論より証拠として、もし無線機器のケースを開ければ技適が無効、すなわち部品へのアクセスが一切許されないとするのなら、Raspberry Piや無線LANカードのような基盤むき出しのものや、私が最近愛用している、100均の簡単にケースが開いてしまうBluetoothイヤホンに技適が通るはずがありません。
しかし、これらは確実に存在しているという事実から、そこまで強い規制は存在しないということの証明となっています。
また、比較的正確に書かれている、Wikipediaの「技適マーク」には、
なお、アマチュア無線で使用されるアマチュア局用の「技適マーク付きアマチュア無線機」の筐体を、無線従事者が修理などで筐体を開閉しても、技適マークは無効にならない。
と書かれていますが、電波法ではアマチュア局等に限定はしていません。
無線従事者の免許取得には無線工学の知識も必要ですが、特別に許されるのは無線設備の操作だけです。
一部では、無線設備の点検若しくは保守が義務付けられることがありますが、電波を出さない範囲の点検や保守自体は無線従事者の免許を必要としません。責任を持てば(監督すれば)良いのです。
分解について正しくは、
改造(故意)は勿論だが、機器内部に触れただけで改造となり、電波法違反となる可能性を無視できないから、無線機の構造や仕組みを十分に理解している者以外は、機器の内部に触れるべきではない。
ということのはずですが、機器メーカー,キャリア,行政関係者等は、事故防止のため少々極端な警告を発することも多いのでしょう。
また、無線従事者は無線工学を学んでいるから、修理のつもりで改造してしまったという事故が比較的少ないことが期待できること、昔から特にアマチュア無線家は、機器の修理を自分で行うのが当たり前だったことなどから、絶対に分解禁止という間違った噂と、分解は不可能ではないという現実が混じった中間論のようなものが広がっているのかもしれません。
しかし現実は、誰が分解しても修理しても、それ自体が違法となることはありませんし、技適には影響がありません。
そもそも技適とは、電波法第四条や第二十七条の二十一に関連する無線局開設(利用前)手続きを簡略化または不要とする意味しかありません。
開設後(利用中)には、技適は意味を持ちません。
自動車の車検が、通ってから1年ないし2年間は車両の状態が合法だと保証するものではなく、そのときに合法だったことしか証明しないのと同じです。
その後、改造や故障等で違法車両となることはありますが、車検そのものが無効となるものではないことと同じです。
としても、私の考えとしても、例えば無線機を分解して空芯コイルを発見してしまったときに「ヤバイ」と思わないような人は分解すべきではないと考えますますから、無線機の仕組み等の知識がなさそうな人には、「絶対ダメ」とは言いませんが、機器メーカー,キャリア,行政関係者等と同様な説明をするかもしれません。
また、技適マークの規制は、極一部を除き、製造,修理業者へのものです。
マークを張る義務や剥がす義務は、原則として業者向けであり、利用者は勝手に剥がしても構いませんが、不正な(紛らわしい)ものを貼ることはできません。
ただし、利用者が勝手に技適マークを剥がすと、以下のようなデメリットがありますから注意してください。
・再免許,再登録が必要な場合に簡易な手続きでは済まない
・無線機を売却し新たに購入した者は、電波法第四条に関連する無線局開設手続きをしないと使用できない(再登録に同じ)
・違法な無線機と疑われる可能性がある
当然、取り締まる側から見れば「剥がすな」という表現になるでしょうが、剥がして使用しても違法ではないはずです。
しかし、厄介な話になる可能性はあります。
電波法では適合表示無線設備のみを使用するという条件で許可しているものがあり、実際に技適に通ったことではなく技適マークの有無が基準となっています。
これは、無線局を開設しようとするとき(運用開始前)の条件なので、そのときに技適マークが有ることを条件にしているため、事後技適マークを剥がしても違法にはなりませんが、剥がした時点で無線局の廃止とみなされ、以後の利用が違法となるという考えもあるかもしれません。
そうであっても、電波法第四条で免許を要しないとされている場合(無線LAN,Bluetooth,特定小電力無線機等)は、第二十二条の廃止の届け出(廃止時の必須事項)ができませんから、そもそも廃止という概念がないといえますので、技適マークを剥がしても違法とはならないでしょう。しかし、免許や登録を要する無線局(簡易無線,アマチュア無線等)の場合は、廃止という概念があるため問題となるかもしれませんが、罰則に結び付くほど強い違法性はないでしょう。
ただし、再免許,再登録が面倒になるので技適マークを剥がすべきではありません。技適マークを剥がして簡易な免許手続等を行えば違法です。
更に、無線設備規則第四十九条の十四等の「空中線系を除く高周波部及び変調部は、容易に開けることができないこと」という規定が混乱を与えているようです。
ところが、無線設備規則第四十九条の十四等は、
・製造者への規制である
・高周波部及び変調部に限っている
・改造,交換されると厄介なアンテナ(空中線)を除いている
・容易に開けることができない = 少し苦労すれば開けられてもよい(「開けることが困難でなければならない」等もっと厳しい表現もできる)
ということから、電波の質に大きく関わり、触れただけで変化が生じかねない(改造になりかねない)部分を、誤って触ることがない程度の保護を要求しているものだと思われます。
昔からこの部分は、別途金属ケースで覆ったり、樹脂で固めたりして、誤って触る(調整が崩れる)ことがないようにするのが一般的でしたから、これを強制する意図でしかないと思います。
ちなみに、冒頭で示した、Raspberry Piや無線LANカードのような基盤むき出しのものや、100均のBluetoothイヤホンは、この高周波部及び変調部がIC化されており、特別なことをせず、IC自体が容易に開けることができないという要求を満たしているから技適を通っているのです。
そもそも、技適無効条件として、利用者が「開けてはならない」のなら、別途その旨を利用者側への規制として制定する必要があるのですが、そのようなものはありません。
勿論、改造すれば、再検査を義務付けていますから、技適は無効となります。
要約
技適関連で利用者が注意すべき違法行為の主なものは次のとおりです。
<携帯電話>
・改造を行った(厳密には3Gや4Gといわれる回路部分に限る)
・キャリアが明確に禁止しているのに修理等を行った
・分解しただけで違法となる可能性がある
<免許や登録を要するもの>(アマチュア無線,簡易無線等)
・免許や登録手続をせず使用した
・技適マークのない無線機で簡易な免許・登録手続にて開設した
・電波出力に関わる改造を行い、必要な申請をせず検査を受けず使用した(再検査が難しい簡易無線等は改造禁止と同義)
<免許を要しないもの>(無線LAN,Bluetooth,特定小電力無線機等)
・技適マークのない無線機で開設(使用開始)した(事実上技適マーク必須)
・電波出力に関わる改造を行い使用した(事実上再検査が困難)
<共通>
・違法となる機器を使用せずとも、すぐに電波の出せる状態で所持しているだけで原則として違法
・電波出力に関わる改造(スピーカーやスイッチ,ボリューム類程度の改造は通常含みません)を行ったのに技適マークを除去しなかった
・修理のつもりで改造となった、若しくは故障により、電波の質や出力が電波法に適合していない電波を発射してしまった(処罰なし)
・それを理由に総務大臣が電波の発射の停止を命したのに従わなかった
補足
*利用者が意識すべき代表的なもののみであり、規格(法律)変更で使用禁止となる等、他にもあります。
*厳密性には欠ける大雑把な説明です。例えば、電波出力に関する改造でも、出力を絞り総務省令で定めた微弱出力への改造は合法です。
*電波法では、正式な手続き(電波の質等が合法)により開設した無線局の機器が、その後の修理や故障により電波法に適合していない電波を発射しても、違法ではあるがやむを得ないという前提になっています。 ただし大きな過失により違法な電波を出す結果となれば、違法改造と同等に扱われる可能性は否定できません。
最後に
実は、ここまでの説明は、かなり建前じみています。
最近の機器、特に小型のものは、無線回路の殆どがIC化されており、無線部の修理や改造をしたくても、現実的に無理ですし、調整が狂ってしまうような部分も見当たりません。
ようするに、意識的に技適を無効にすることが困難なものばかりであり、ケースを開けて閉じたくらいで違法性について注意しなければならないようなものが、我々の身近にはあまり無いのに、昔の良識である「開けるな危険」を強調する必要性を感じません。
たしかに、古い無線機を開けるのは要注意だと思いますし、今でも低い周波数の無線機はヤバイものがあるかもしれないのですが、今の時代に神経質になる必要性は薄れています。
従事者免許の有る人は知識があるから除くとして、従事者免許を要せず技適で使用できる無線機を使用する人が「開けるな危険」の機器を手にすることがあるのが疑問です。
また、技適とは無関係ですが、現在でも次のことは違法なので注意してください。
・自己若しくは他人に利益を与え、又は他人に損害を加える目的で虚偽の通信を発した
・日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する通信を発した
・わいせつな通信を発した
・他人の通信の秘密を漏らし又は窃用した